盛岡家庭裁判所 平成2年(家)315号 審判 1990年8月06日
申立人 田辺弘一
事件本人 スーザン・ダナウィック
主文
申立人が事件本人スーザン・ダナウィックを養子とすることを許可する。
理由
1 本件申立ての趣旨及び実情の要旨は、申立人が事件本人の母クリス・ダナウィックと婚姻し、事件本人とも同居しているので、この際、事件本人と養子縁組をしたく、その許可を求めるというものである。
2 一件記録によれば、事件本人は1978年(昭和53年)10月13日に、母クリス・ダナウィック、父モリス・ダナウィックとの間の子として出生したが、父母が昭和59年までに離婚し、事件本人の親権者は母と定められたこと、その後、事件本人は佐々木隆夫婦との間で養子縁組がされたもののまもなく離縁し、一旦韓国に居住する母方祖父母に預けられた後、昭和63年6月に再び来日し、盛岡市内の母方叔母方に居住していたが、平成元年9月に母が申立人と婚姻したことに伴い、事件本人も申立人、母と同居し、今日に至っていること、事件本人は、申立人と同居後、申立人にもよくなついて良好な関係が続いており、学校生活(近くの小学校に転校し、現在5年生)、家庭生活ともに、健全な生活を送っていること、申立人は事件本人に対し愛情を有し、今後の養育に十分な意欲を示しており、その養育態度、養育環境等にも特に問題はみられないこと、事件本人自身も申立人の養子となることを希望し、親権者である母も事件本人と申立人との養子縁組を積極的に望んでいることの各事実が認められる。
3 ところで、事件本人の国籍はアメリカ合衆国(イリノイ州)であるが、法例20条1項本文によれば養子縁組は養親の本国法によると定められているので、まず養親の本国法たる日本法に鑑みて本件をみるに、右認定事実に徴すると、申立人と事件本人との養子縁組には、要件的になんら欠けるところが存せず、かえって家庭裁判所による許可をも要しないところである。他方、法例20条1項但書によると養子の本国法が養子縁組の成立につき第三者の同意、公の機関の処分等を要件とするときはその要件の充足も必要である旨定めているところ、養子の本国法たるイリノイ州法では、本件のような養子縁組の成立には、実親が裁判所において同意をし、裁判所が子の幸福等を考慮して決定することを必要としているので、この点を案ずるに、まず事件本人の実母が当裁判所の家庭裁判所調査官による調査に際し、本件養子縁組に積極的な同意を表明していること及び事件本人の実父が実母や事件本人とまったく連絡がなく所在が不明で同意を得るのが著しく困難であることは明らかである。また、イリノイ州法において裁判所の決定を要するとしている趣旨と日本法において未成年者の養子縁組に家庭裁判所の許可を要している趣旨とは実質的に同一と解されるから、イリノイ州法による裁判所の決定に代わるものとして日本の家庭裁判所による右許可審判があれば、イリノイ州法による右要件が満たされるものと解すべきである。そこで右の意味で、本件につき当裁判所が養子縁組の許否を判断するに、前記認定の各事実に徴すると、申立人が事件本人を養子とすることは、事件本人の福祉によく合致するところと認められるから、右養子縁組はこれを許可するのが相当である。
よって、主文のとおり審判する。
(家事審判官 田村幸一)